大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和40年(ワ)2931号 判決

原告(昭和四〇年(ワ)第二一六一号、同年(ワ)第二九三一号)

反訴被告(昭和四〇年(ワ)第八五五三号) 小久保徹

右訴訟代理人弁護士 丹篤

被告(昭和四〇年(ワ)第二一六一号) 三友建設株式会社

右代表者代表取締役 小杉要〈ほか二名〉

右被告(反訴原告)三名訴訟代理人弁護士 山崎清

主文

一、被告(反訴原告)小杉要は原告(反訴被告)に対し金一一万円及びこれに対する昭和四〇年三月二五日から支払すみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告(反訴被告)の被告三友建設株式会社及び被告株式会社小杉工務店に対する請求並びに原告(反訴被告)の被告(反訴原告)小杉要に対するその余の請求をいずれも棄却する。

三、反訴原告(被告)小杉要の請求を棄却する。

四、訴訟費用は、昭和四〇年(ワ)第二一六一号事件については原告(反訴被告)と被告三友建設株式会社との間に生じたものは原告(反訴被告)の負担、原告(反訴被告)と被告(反訴原告)小杉要との間に生じたものはこれを三〇分しその二九を原告(反訴被告)の負担、その余は被告(反訴原告)小杉要の負担とし、昭和四〇年(ワ)第二九三一号事件の訴訟費用は原告(反訴被告)の負担、昭和四〇年(ワ)第八五五三号事件の訴訟費用は反訴原告(被告)小杉要の負担とする。

五、この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、昭和四〇年(ワ)第二一六一号事件につき、

一、原告(反訴被告、以下単に原告と略称する)訴訟代理人は、

「被告等は連帯して原告に対し金三五〇万円及びこれに対する被告三友建設株式会社は昭和四〇年三月二六日から、被告小杉要は昭和四〇年三月二五日から各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告等の負担とする。」

との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

(一)  被告三友建設株式会社(以下単に被告会社と略称する)は土木建築工事請負業者であり、被告(反訴原告、以下単に被告と略称する)小杉要は同会社の代表者である。

(二)  昭和三〇年一〇月二六日原告が注文主、被告会社が請負人となり次の如き請負工事契約をした。

(1) 共同住宅工事

一階二一六・五二平方メートル(六五坪五合)

二階二二三・一四平方メートル(六七坪五合)

工事代金 金三八五万七、〇〇〇円

竣工期日 昭和三一年一月三〇日

(2) 事務所住宅工事

一階七四・三八平方メートル(二一坪五合)

二階五七・八五平方メートル(一七坪五合)

工事代金 金一四四万円

竣工期日 昭和三一年二月二八日

(3) 施行場所(1)、(2)とも東京都江戸川区小岩町四丁目一九七四番地

(三)  被告会社は右約定に反し(1)、(2)の工事を期日までに竣工しないで、昭和三一年六月一八日原告は被告会社と(2)の事務所住宅工事は着工していなかったのでこの分だけ合意解除し、(1)の共同住宅工事は再契約してこの竣工期日を昭和三一年七月一一日と改めた。

(四)  そして、原告は被告会社に対し別紙第二目録(支出一覧表)第一、一ないし三記載のとおり合計金四二九万五、〇〇〇円を前渡金として交付した。

(五)  しかるに、被告会社は右約定に反し、右竣工期日までに、基礎工事(基礎、足場授、建方一式)金三三万二、五〇〇円及び本工事一式(大工手間)金四六万五、五〇〇円、合計金七九万八、〇〇〇円をしたのみである。そこで原告は被告会社と昭和三一年七月一一日直後において再び未完成部分につき合意解除し、清算は後日することとし、未完成部分をそのまま引取って他の請負業者に請負せてこれを完成した。

(六)  従って、原告は被告会社に対し、前途金四二九万五、〇〇〇円から完成工事代金七九万八、〇〇〇円を差引いた金三四九万七、〇〇〇円の前途金返還請求権を有する。

(七)  又、原告は被告会社に対し別紙第二目録第二、一ないし四記載のとおり合計金一六万円を貸付けた。

(八)  そして、被告小杉要は、右被告会社の原告に対する債務につき、右工事の前渡金については昭和三一年六月一八日工事再契約をするに際し抱括して連帯保証し、かつ同目録記載第一の二及び三並びに第二の一ないし四記載の金員については各手形交付の日又は貸付の日にその都度(工事前渡金については重ねて)連帯保証した。

(九)  よって、原告は被告等に対し、前渡金返還請求債権並びに貸金を択一的に、右金員の内金三五〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である被告会社に対しては昭和四〇年三月二六日から被告小杉要に対しては昭和四〇年三月二五日から各支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

と述べた。

二、被告等訴訟代理人は「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁及び抗弁として、

(一)  原告主張の請求原因第(一)ないし第(三)項の事実は認める。ただし、第(三)項中、事務所住宅工事契約を合意解除したのは昭和三〇年一〇月二六日の直後であり、被告会社が仕事をしなかったためではない。

(二)  同第(四)項の事実は認める。ただし、別紙第二目録第一、一、記載の金二一四万五、〇〇〇円については現金六万円を付加して支払ったことは否認し、当初は土地は最初原告主張の金額で評価し、代金の一部として右土地を譲受けたところ、右評価が過大であったので昭和三一年五月原、被告会社間で再評価し、金一七一万六、〇〇〇円と改めた。

(三)  同第(五)及び第(六)項の事実は否認する。被告会社は竣工期日に約旨に従って共同住宅工事を竣工し、かつ引渡をしている。従って工事代金については清算ずみである。なお、右の事実は右共同住宅については昭和三一年六月二六日に保存登記ずみであることからも明らかである。

(四)  同第(七)項の事実は被告小杉要が別紙第二目録第二、一、記載の一万円を借受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(五)  同第(八)項の事実は否認する。

(六)  仮に、原告の主張する前途金返還請求権が存在するとしても、それは原告及び被告会社間の本件請負工事契約に基くものであるから、

(1) 請負人の工事に関する債権の時効に関する民法第一七〇条の規定により工事終了の昭和三一年七月一一日頃から三年の時効期間の経過により、

(2) 仮に右主張に理由がないとしても、商行為に生じた債権であるから、その権利発生の日、原告主張によると、合意解除の日である昭和三一年七月一一日頃から五年の時効期間の経過により、消滅している。

従って、原告の本訴請求は理由がない。

と述べ、原告の時効中断の事実を否認した。

三、原告訴訟代理人は右消滅時効の抗弁に対し、再抗弁として、

被告等は原告に対し、本訴提起の時まで、毎年盆、暮の挨拶の際に、本件債務を承認し、返済の猶予を乞うていたのであり、右承認により時効は中断している。

と述べた。

第二、昭和四〇年(ワ)第二九三一号本訴事件につき、

一、原告訴訟代理人は、

「被告等は各自原告に対し別紙第一目録第一記載の建物の階下部分を明渡せ。

訴訟費用は被告等の負担とする。」

との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

(一)  原告は別紙第一目録第一記載の建物を昭和三一年八月二七日訴外斉蔵昇次から買受けて引渡を受け、同年八月二八日その旨の所有権移転登記手続を経由し、右建物を所有している。

(二)  しかるに、被告等は何等の権原もないのに右建物の階下部分を占有している。

(三)  よって、原告は被告等に対し所有権に基き右占有部分の明渡を求める。

と述べた。

二、被告等訴訟代理人は、「原告の請求をいずれも棄却する訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め答弁として、

(一)  原告主張の請求原因事実は、別紙第一目録第一記載の建物につき原告主張の如き登記が経由されていること、及び右建物の階下部分を被告等が占有していることは認めるが、その余の事実は否認する。

(二)  右建物は被告小杉要の所有であるが、反訴請求原因主張のとおり、被告小杉要が訴外船橋信用金庫から金員を借受けるにつき便宜上原告名義にしたに過ぎない。

従って原告の請求は失当である。

と述べた。

第三、昭和四〇年(ワ)第八五五三号反訴請求事件につき、

一、被告(反訴原告)小杉要訴訟代理人は

「原告(反訴被告)は被告(反訴原告)に対し別紙第一目録第一及び第二記載の不動産について所有権移転登記手続をせよ。

訴訟費用は原告(反訴被告)の負担とする。」

との判決を求め、その請求の原因として、

(一)  別紙第一目録第一及び第二記載の建物は被告小杉要が昭和二九年八月頃新築した同被告所有のものである。

(二)  ところで、右建物は被告小杉要が、実兄である訴外斉藤昇次の営業上の信用を増すため登記名義を同人名義にしていたが、昭和三一年八月二八日被告小杉要はこれ等を担保として訴外船橋信用金庫から融資を受けようとし、それには船橋市に居住することを必要としたので、名義を同市に居住する原告に借り、原告名義で金を借りるため右建物の登記名義を原告にかえて担保としたのである。

(三)  その際、原告と被告小杉要との間で、被告小杉要において必要あるときは何時でも被告小杉要名義に登記名義を返還すると言う約定がなされた。

(四)  仮にそうでないとしても、

(1) 船橋信用金庫に対する借入金を返済したときは原告小杉要に対し登記名義を移転すること。

(2) 右借入金返済の有無にかかわらず、被告株式会社小杉工務店及び被告小杉要の占有する以外の本件建物の賃料を原告において受領し、これを右借入金の返済にあて、この方法によれば賃料は一ヶ月約四万七、〇〇〇円であったから借入後五年以内に返済できる見込であったので、右借入の日から五年を経過するときは登記名義を被告小杉要に移転すること。

との約定があった。

(五)  ところで、本件借入の日は昭和三一年九月五日であり、原告は右借入以来現在まで右借入金の返済に当てるものとして右賃料を取得しているのであるから、右期日から五年を経過した昭和三六年九月五日の経過により原告は被告小杉要に対し別紙第一目録第一及び第二記載の物件の所有権移転登記をなすべき義務がある。

(六)  よって、被告小杉要は原告に対し右物件につき、第一次的には第(三)及び第(四)項(2)の約定により、第二次的には所有権に基き、被告小杉要に対する所有権移転登記手続を求める。

と述べた。

二、原告(反訴被告)訴訟代理人は「被告(反訴原告)小杉要の請求を棄却する。訴訟費用は被告小杉要の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

被告小杉要の反訴請求原因事実は別紙第一目録第一記載の建物につき本訴請求原因記載の如き登記がなされていること及び同目録第二記載の建物につき原告名義に登記がなされていることは認めるが、その余の事実は否認する。

と述べた。

第四、証拠関係≪省略≫

理由

第一、昭和四〇年(ワ)第二一六一号事件についての判断。

一、前渡金返還請求について、

(一)  原告主張の請求原因第(一)、(二)項の事実及び、事務所住宅工事についての契約が解除され、昭和三一年六月一八日原告と被告会社間において、共同住宅工事につき原告主張の如き工事請負再契約がなされたことは当事者間に争いがない。

(二)(1)  そして、≪証拠省略≫を綜合すれば、被告会社は資本金不足から右工事を独りで完成することができず、そのため被告会社において工事中、原告も右工事の未完成部分の一部の契約を債務不履行を理由として解除し、原告の責任において、板金、大工、電気並びに左官工事の一部をなし、結局原告と被告会社とともに協力して竣工期限から約一〇日位は遅れたが、昭和三一年七月二〇日頃完成したことを認めることができる。≪証拠判断省略≫

(2)  右事実と、当事者間に争いのない被告会社において原告から本件工事契約につき少くとも金三八六万六、〇〇〇円の前渡金を受領しているとの事実を綜合すれば、原告は昭和三一年六月一八日から同年七月二〇日までの間において本件工事中未完成部分の一部の契約を解除し、これを自己の責任において完成しているのであるから、契約解除により被告において工事をした部分以外の前途金返還請求権を有することが認められる。

(3)  ところで、右請求権は注文主の請負人に対する工事に関する債権であり、本件においては特にその支払期日について約定したことを認めるに足る証拠もないところ、その債権の性質上消滅時効については民法第一七〇条第二号の請負人の工事に関する債権と同一視されるので、同条の適用を受けるものと解される。

(4)  そして弁論の全趣旨並びに本件記録によると、右前渡金返還につき裁判上の請求がなされたのは昭和四〇年三月一八日の本訴提起が最初であることが認められるところ、本件に顕われた全証拠によっても右工事を終ってから右訴訟提起の間において、原告主張の如く、被告等において右債務を承認していた事実を認めるに足る証拠がない。≪証拠判断省略≫

(5)  してみると、原告の被告等に対する本件前渡金返還請求権は、爾余の判断をするまでもなく、民法第一七〇条の規定に従い、本件工事終了の時である昭和三一年七月二〇日頃から三年である昭和三四年七月二〇日頃の経過により時効により消滅したことが認められる。

従って、原告の被告等に対する前渡金返還請求は、爾余の判断をするまでもなく、理由がない。

二、貸金請求について、

(一)  原告が昭和三一年八月一一日被告小杉要に対し支払期日同年八月二五日の約定で金一万円を貸付けたことは当事者間に争いなく、原告が昭和三一年九月二九日被告小杉要に対し金一〇万円を支払期日の定めなく貸付けたことは≪証拠省略≫よりこれを認めることができる。

原告のその余の貸金に関する請求原因事実は、本件に顕われた証拠によってはこれを認めることができない。

そして、本件訴状が被告小杉要に送達された日の翌日が昭和四〇年三月二五日であることは記録上明らかである。

(二)  右事実によると、被告小杉要は原告に対し金一一万円及びこれに対する昭和四〇年三月二五日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払うべき義務があり、原告の被告小杉要に対するその余の請求並びに原告の被告会社に対する請求は理由がない。

第二、昭和四〇年(ワ)第二九三一号(本訴)並びに同年(ワ)第八五五三号(反訴)事件についての判断。

一、別紙第一目録第一記載の建物につき原告主張の如き登記がなされていること右建物の階下部分を被告等において占有していること、及び同目録第二記載の建物につき原告名義に登記がなされていることは当事者間に争いがなく、別紙第一目録第二記載の建物につき、昭和三〇年五月二三日東京法務局江戸川出張所受付第五一五七号をもって訴外斉藤昇次のために所有権保存登記がなされ、その後同年一二月二一日同出張所受付第一三八〇四号をもって訴外山本積盛のために同日付代物弁済を原因とする所有権移転登記がなされていたが、昭和三一年八月二八日同出張所受付第一〇八八八号をもって原告に同年一二月二七日売買を原因とする所有権移転登記がなされていることは≪証拠省略≫により明らかである。

二、そして≪証拠省略≫を綜合すれば、別紙第一目録第一及び第二記載の建物はもともと被告小杉要が昭和二九年八月頃新築した同被告所有のものであり、訴外斉藤昇次名義になっていたもので、同人名義で被告小杉要が訴外山本積盛から金借するにつき担保に供し、そのうち別紙第一目録第二記載の建物については同訴外人が賃料を受領するため前記一、認定のとおり代物弁済名義で同訴外人に所有権移転登記がなされていたものである。そして昭和三一年八月末頃において訴外山本積盛において被告小杉要に右貸金の返還を迫り、かつその他にも当時原告と被告小杉要間には債権債務につき色々と事情があり、かつ原告と被告小杉要とも資金に窮していたところ、原告はその居住する訴外船橋信用金庫に対して信用があり、右建物を担保として金三〇〇万円を借入れることができたので、被告小杉要としては、自分の右借財を返還し、かつ右原、被告の金融の便に処するため前記登記のとおり、売買名義で原告の所有者名義とし、一応原告の所有として訴外船橋信用金庫に担保に入れて金三〇〇万円を借入れこれをもって約二〇〇万円の被告小杉要の訴外山本積盛に対する債務を弁済し、その余は原告において使用したこと、そして右訴外船橋信用金庫からの借入金については原告及び被告小杉要が協力して返済し、返済後は譲渡形式を整えて所有権(登記を含む)を被告小杉要に返還すること、及び被告小杉要の右借入金の返済については右建物のうち被告株式会社小杉工務店及び被告小杉要が使用していない部分を他に賃貸し、その賃料によって清算する旨の約定がなされていたことが認められる。≪証拠判断省略≫

事実は前記のとおりであって、被告小杉要主張の如き、前記登記は登記名義のみを原告にするのであって所有権は被告小杉要に留保するとか、被告小杉要の要求するときは何時でも、被告小杉要に対しその所有権移転登記をするとか。又は右借入金の返済ができなくても五年を経過したときは被告小杉要に対しその所有権移転登記をする等の約定は本件に顕われた証拠によってはこれを認めるに十分ではない。

三、右事実によると、別紙第一目録第一及び第二記載の建物については、原告と被告小杉要の間の約定によって、担保物件として使用するため原告所有名義にしたものであり、同時に一応所有権も形式的には原告に移転していると認められるが、それは被告等の使用を認めた上での担保のためであるから、原告としては完全な所有権を取得したとして、被告等に対し別紙第一目録第一記載の建物階下部分の明渡を求めることはできないし、又一方被告小杉要も又その請求原因主張の如き約定は認められず、一応所有権は原告に移転しているのであるから、所有権に基く請求も理由がないと言うべきである。

第三、以上説示の理由により、全事件を通じ、原告並びに被告小杉要の各請求は理由第一の二、(二)記載の原告の貸金請求の一部についてのみ理由があるから右限度においてこれを認容し、その余はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三宅純一)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例